続けていたことの辞め方

私はこれまで、何度か勤めていた会社や組織を辞める経験をしている。

学生時代にしていたアルバイトを含めると、その経験はかなり多い。

趣味など習い事を辞めたことも、何度かある。

人生は、「何か続けていたことを辞める」ことを経験するもの。

次の段階に進むということは、すべてを引き連れていくことはできなくて、辞めることがないと進めない。

そして、辞める事の大小はあるが、すべて多少なりとも「喪失体験」を伴い、また辞めること告げる時は、かなりの勇気が必要なものだ。

私は、最近まで、辞めることを相手側に告げるのが、とても苦手だった。

明確な理由があるときは辞めやすい。引っ越しとか、結婚とか、病気とか、大きなライフイベントが重なったとき。

一番、告げにくいのは、「飽きたから」とか「仕事や環境が嫌」とか「人間関係でどうしても折り合いが良くない人がいるとき」などだろう。

私が20代のころ、アルバイトを辞めるとき、どうしても相手側に伝えることができなくて、ある日、突然音信不通になるという強行突破をしたことがある。今、思うととても失礼だし、社会的に未熟な行為だったと反省している。辞めると告げる適切な理由が見つからず、相手に不快な思いをさせてしまうかもという不安で、やったことだった。

突然消えるというのは極端だが、それだけ相手に辞めると告げることは難しいことなのだ。

今は、退職したいと思ったら、会社の人とは一切合わずに、すべてサービス会社の人が退職手続きをしてくれるという「退職代行サービス」というものがあるらしい。

こういったサービスを利用する人の心理も、私としては理解できなくもない。

ただ、お互いに気持ちの不全感が残ってしまうのではないだろうか。

先日、私の人生のなかで一番長く勤めたクリニックを辞めるときは、上司と向き合い自分の本当の気持ちを伝え、円満に退職できたと思う。

以前は、私自身がメンタル不調になり、逃げるように退職したこともあるが、今回はそうではなかった。

私の感覚としては、「もうここでの学びは終わった。次に行くとき」というものだったので、それをそのまま上司に、これまでの感謝とともに、素直な気持ちを告げた。

すると、上司も「応援しているね」と言ってくれたのだ。私の人生のなかで、一番良い辞め方ができたと思う。

そう思うくらい、在職していた間は、嬉しいことも嫌なことも向き合ってきたし、自分なりに組織に貢献してきたという自負もあったから。

何かを始めるにも勇気がいるが、辞めるということも、それ以上に勇気が必要なことかもしれない。